ひょっとこ

戦後すぐの頃であるので物や食べ物もない時代であった。
ある家に中学生の息子とその友達が3人遊んでいた。男の子たちは物々交換(闇市では現金の代わりにそういうのもしてくれた)ができる物はないかと蔵の中を漁っていた。
そのうち、ひょっとこのお面を見つけた。その家の息子はそのお面がいたく気に入ったらしくそれを被った。そしてでたらめに無言のまま踊り続けた。周りの友達は大笑いし、みんなでふざけながら蔵の中で楽しく夕方まで過ごした。
お面の子だけはなぜかずっと無言のままだった。
ふざけているうちお面の子が何かにつまづき転んでしまい、そのまま動かなくなった。ふざけてるのかと周りの友達は思ったが呼んでも返事もないので周りの友達が起こそうと仰向けにすると自分で無言のまま、お面をとろうともがき始めた。
友達は慌ててひょっとこのお面を取ると、その子の顔は土色で唇は紫色で死人のような顔で全く動かなくなってしまった。
急いで医者を呼んで診て貰ったところ厳しい口調で「どうして放っておいたんですか?!亡くなってから何時間も経ってますよ」

通りがかりの人

ある女性が足を骨折した時の話。
ある日の昼にその女性は付き添いの看護師さんに車椅子を押してもらい、階下の売店へ行く途中だった。その時前から年配の知らない患者さんらしき女性が歩いてきた。
「こんにちは」
その患者さんは会釈してきたので、女性は挨拶を交わしすれ違った後、看護師さんが「振り返っちゃダメです」と女性に耳打ちした。
「今の人は今朝亡くなった人です」

古い鏡

とある学校の渡り廊下の壁には古い鏡が埋め込まれている。『昭和○○年寄贈』ち書かれているようだがもうすりきれて見えないほどだという。

その学校に若くて美しい新任の先生がやってきた。その先生は最初の授業に向かう途中でその古い鏡の前で立ち止まった。髪の乱れを整えていると一瞬鏡の中に老婆が見えた。
「え?」と思うのも束の間すぐに消えたので気のせいだろうと授業する教室に向かった。それ以来先生はその鏡の前で身だしなみのチェックをするのが習慣になった。

夏も近づいた頃先生は一人の男子生徒に「先生、最近小じわが目立つぜ」
その場は冗談で返したが先生自体はとっくに気づいていた。肌も衰え、白髪も生え始めた。それはまるで精気をなくなっているようだった。
彼女が教師になって1年が経ち、相変わらず学校のあの廊下の鏡を見ていた。そこには見た事もない若くて美しい女が写っていた。そして、その鏡の中の女の口が動いた。
「い・た・だ・い・た・よ…」
ハッとした先生は自分の手鏡を観たらそこには、おばあさんのように老け込んだ自分の顔が写っていた。

生霊

死霊より生霊の方が怖いという。それは生きてる限りエネルギーが補給されているからだ。生霊を出してる人の中には自覚していない人もいるようだ。

相模国(神奈川県)に信久という身分の高い人がいた。この人の奥方は土岐玄春という人の娘である。とても評判のある美人で信久はとてもとても可愛がった。
腰元に常盤という女がいた。この女もとても美しい人だったので信久も時折通っていた。常盤は奥方にとてもよく奉公を致しておった。
ある時奥方が情緒不安定な病状となり、次第に重くなり信久は尊い僧に頼んで祈祷をさせると、僧は経文で占い「この病は人の生霊がついております。霊媒を用いて憑いている悪霊を呼び出すと誰かわかるでしょう」
と言うので信久はその通りにしていただくよう僧へお願いした。

僧は12,13歳ほどの女を裸にして、身体中に「法華経」を書き、両手に御幣を持たせ僧を120人集めて法華経を読ませて病人の枕もとに祭壇を作り蝋燭を120本灯し、経を読んだ。
霊媒である12,13歳ほどの女が何か言いかけた。僧はますます力を入れて経を読むとその時常盤が壇の上に立ち現れた。
僧が「本当の姿を現せ」と言うと常盤は衣服をつくろい打掛姿の正装で出てきて、上の小袖を翻した。その時120本の灯篭は一緒に消えてしまったが、火が消えるとともに奥方も亡くなってしまった。
信久は無念に思い奥方の追善供養のため、常盤を引っ張り出し牛裂きの刑(※1)に処した。

※1 二頭又は四頭の牛に手足を縛りつけて牛を走らせる処刑法

子を食べた母

    文政年間(1818~1830年)の頃、信州の某の山里に住む夫婦の間に一人息子がいた。
ある日、夫が外に出て妻と息子が残っていた。息子は5歳であったが、小刀で指を切ってしまった。そして血を見て思い切り泣き叫びだした。
母は口で舐めて血を止めようと思い、ついその血を飲んだところその味が何とも言えず美味しくて我慢できなくなり、指を食べ、とうとう片腕を食べてとうとうその子を食い殺してしまった。
夫が帰ってきては大変だと思い、家を出て山に隠れそのまま行方知れずとなってしまった。

その後5年が過ぎ、女が山から下りてきて村長の家に来た。食い物を乞い以前自分が子供を食い殺した事、そして山へ隠れた事を語ったがその女の顔は馬のようであり、身体には毛が生えまるで獣のようであったという。見る者は恐れて逃げたので、その女も姿が見えなくなってしまった。
里人は、またこのままでは人を食い殺すだろうと領主に訴えたので山狩りをしたけれど、とうとう行方は分からなかった。