這う腕

Tさんという医師が勤める救急センターにビルの5階から転落したという初老の男性が運ばれてきた。落ちる途中で何かに引っかかったようで右腕は半分以上ちぎれていた。そこで右腕を切断したのだが、意識不明のまま数時間後に亡くなってしまった。
ところが手術後、切断した腕が見つからない。翌日腕は病院の事務所の金庫の前で発見された。5本の指の爪は剥がれてしまい金庫のダイアルには何度も開けようとして必死になったであろう血痕があった。
防犯カメラで調べてみると病院中を腕が這いずりまわり金庫にたどり着いていたのである。
警察の話ではその腕の持ち主は、「クモ男」と呼ばれた金庫破りの名人だったそうで意識不明のままでも職を全うしようとしたのであろう。

 

[参考文献:本当に怖い怪談]

皮膚剥離

その看護師さんは糖尿病などの食事制限をされた入院病棟で働いていた。
糖尿病はご飯は薄味で少量などのせいもあり、患者はいつも空腹だったようだ。そこに糖尿病と痴呆で入院してきたIさんというおじいさんがいた。その人も毎日空腹でナースステーションに来ては「お腹空いた、何か食べるものない?」と聞きにきて、病気の説明を看護師が毎日説明しても「ひもじい」と言って周りの看護師は困っていた。
しかし、ある時からそれがなくなって職員も看護師もびっくりしていた。

数週間後の夜勤の時ある職員が真っ青になってナースステーションに飛び込んできた。その職員は「Iさんが!Sさんの腕を!」と言い、急いで見に行くと寝たきり患者さんの腕の皮膚が剥がされていた。そして傍らにはその皮膚のかけらを舐めているIさんがいた。皮膚を剥がされた患者さんは多かったようでそれはいつもIさんが剥がしては食べていたらしい。致命傷に至るほど剥がしてはいなかったようだが、それは婦長にまであげる問題となりその後Iさんは他の病院へ移送され、半年ほどして亡くなったと聞いた。

 

[参考文献:ガチに怖い話]

運動会

テレビでドキュメントを撮っていた。それはK君という難病とたたかう姿を紹介していく内容だった。K君は病気になる前は運動会が大好きな男の子だった。クラスメートがお見舞いに来てくれて「運動会出れそう?」と聞いてきたがK君は「難しいよ」と渋っていた。
クラスメート達は「みんなで出たい」という気持ちから「借り物競争でみんなでK君の車椅子を押そう」と医師や学校の先生と相談し、運動会に出れるようになった。K君の両親もとても喜んでくれた。
運動会当日、借り物競争での借り物は「校長先生」という事でクラスメートも含めK君を気遣いながらゆっくりと車椅子を押していた。周りからはどんどん遅れてしまってK君は申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、学校全体の生徒が「頑張れ!!ゴールはもう少しだ!」とK君のゴールに拍手を送った。
感動したカメラマンはその瞬間を写真におさめた。
数日後、K君は亡くなってしまった。そもそも病気はひどく治る見込みはなかったらしい。
テレビのドキュメンタリーはK君が亡くなったため番組の放送はなくなってしまった。だがせめてあの運動会の時の写真をK君の両親にあげようとカメラマンは思った。そして現像するとそこには満面の笑みを浮かべてゴールするK君の背後の生徒達は応援していたはずなのに全員が彼に泣きながら合掌する光景だった。

 

[参考文献:本当に怖い話]

鉄仮面の男

フランスで実際に1703年までバスティーユ牢獄に収監されていた人物である。実際は人と面会をするときにだけ鉄ではなく布製のマスクを被っていたという。
ルイ14世の大臣からピネローロ監獄の監獄長に預けられ、その監獄長が転任するたびその囚人も移送されたという。
そして1698年にバスティーユ牢獄に移送された。当時のバスティーユの看守は「囚人は常にマスクで顔を覆われ、副監獄長直々に丁重に扱われていた」という。
もし人前でマスクを取ろうとすれば殺害せよという指示が出ていたという。そのため誰も囚人の顔を見たことはなかった。結局1703年11月19日に死亡し、「マルショワリー」という偽名で葬られた。
生きていたころは高級な食事が与えられ他の囚人とは違う扱いだったこと、死後は念入りに遺品などが破棄されたこと、監獄長自らが世話をしていたことなどから、高貴な身分の人物であったらしい。
ルイ14世の双子だとか異母兄であったとされるが真相はいまだに不明である。

 

[参考文献:世紀末オカルト図鑑]

その後の自分

そろそろ大学受験を考えているKという男の子がいた。周りの友人はめきめきと学力を伸ばしており一人だけ取り残された気持ちになってきた。そのうち「考えてるの面倒だなあ、行ける大学があればなんでも行けばいいっかあ」と半分投げやりな気持ちになってきた。
塾からの帰り道バスがきた。なんだかいつもと車体の色が違うなと思いつつもKはそれに乗った。
次のバス停で大学生らしき男性が乗ってきた。他人とは思えないほど自分にそっくりでハッとした。その男性は面接にでも行くのか履歴書を取り出した。横目でそれを見ると名前が同じだった。やがてその男性はKをちらっと見てバスを降りて行った。

次に乗ってきたのは30代の会社員風の男性だった。左手に指輪をしていた。その男性の顔を見るとまたも自分にそっくりだった。ほくろの位置や背広にネーミングされた名前も自分と同じだった。その男性はKを冷めた目で見るとバスを降りて行った。

次に乗ってきたのは50代くらいのお腹の出た男性だった。うつろな目でしきりに汗をふいている。その男性の左手には指輪がなかった。ぷんとお酒の臭いを漂わせていた。その男性はKを見ると「人生なんて悲しいもんさ。せいぜいがんばれよ」と言い残し、席を立ってバスを降りて行った。

次はおじいさんが乗ってきた。Kも信じられない様子でそのおじいさんを見た。汗とほこりにまみれた茶色いシャツにすりきれたズボン、べったりと脂ぎった伸ばし放題の髪。おじいさんはKの隣に座り「俺もこんな若い時があったんだよな」と黒い手がKの襟をつかみボロボロの歯をだして笑いながら「人生バスの行先は自分次第だぞ、覚えとけ」とにらみつけた目は白目だった。
Kは怖ろしくなり大声を上げたとたん我にかえった。びっしょり冷や汗をかいて。
するとそこはまだ塾の前のバス停だった。茫然としているKの前にバスが一台停まり「お客さん、乗らないんですか?」と運転手がニヤリと笑った。

 

[参考文献:本当に怖い怪談]