反抗期

Tさんが高校の頃。当時反抗期で家族全員が邪魔な感じだった。
母はいつもおせっかいでうるさく、しつこい。弟も弟でウザい。父は普段何も言わないが母がいると厳しくなる。そんな家にだんだん嫌気がさしてきた。
学校から帰っても母が「おかえりなさい、ご飯できてるわよ」と言ってくれても「いらねーよ」と言って自分の部屋にこもった。イライラしすぎて食欲もわかないほどだったという。ベッドに入り一人憂鬱な気分を持て余していた。
そして寝ようとした時Tさんの部屋のドアが開いた。何故か家族全員いてしかもTさんを見ていかにもな作り笑いをしてニヤニヤしている。Tさんは(俺の眠りまで妨げるつもりか!)と激怒し母が話しかけたのだが「ウゼーんだよ!お前らの顔なんて見たくもないから早くドアを閉めろ!」とついついキレてしまった。家族は悲しそうな顔をして出て行った。そしてTさんは眠りについた。

翌日朝、家族の顔は見たくなかったが食べないわけにはいかないのでしぶしぶ居間へ行った。母は台所で朝食の準備、父は新聞を読んでいる、弟はテレビを観ている。
Tさんは母に「メシは?」と聞くと母は振り返った。Tさんは言葉をなくしてしまう。なぜなら母の顔がツルツルののっぺらぼう。「もう少しでできるわ」と返答されたがTさんは叫んだ。それに驚いた父と弟も声をかけてきたが二人ともやはりのっぺらぼう。
怖くなってTさんは外へ出た。街行く人は普通なのになんでだ?Tさんは恐怖に蝕まれそのうち考え方も(殺らなきゃ殺られる)とだんだん黒く染まってきた。そう思った時Tさんの手にはいつの間にか出刃包丁があった。
決心して家へ入った。まず父の後ろに立った。その時弟が「お兄ちゃん、何持ってるの?」
焦ったとたんTさんは父を滅多切りにした。父はのっぺらぼうのまま背中から大量の血を流し死んだ。続いて弟もグチャグチャに殺した。弟は少し足をじたばたさせて、それから息絶えた。

そしてTさんは一番憎たらしい母がいる台所へ向かった。母は背中を向けて何か作っていた。Tさんは憎しみを込めて母の背中をグサリと刺した。母は声をあげずに震えながらゆっくり振り向いた。
(…え?のっぺらぼうじゃない…母の顔だ)
母は苦しそうにしてTさんにただ一言「ごめん…ね…」と残して息絶えた。台所には大きなケーキが一つ。真ん中のプレートには「たんじょうび おめでとう」と書いてあった。

急いで父たちの所へ戻った。父も弟ものっぺらぼうではなく何が起こったのかわからない表情のまま悲しそうに口から血を流して死んでいた。「うあああああああ」Tさんは泣き崩れた。(俺はただ一つの大事な家族を俺の手でなくしてしまった)
Tさんは頭を抱え顔を手で覆い泣いた。本当はみんなこんなに俺の事を思ってくれてたんじゃないか。

そこで目が覚めた。泣いていた。急いで居間へ行ったらいつも通り家族全員そろっていた。
それから反抗期も去り家族を嫌う事はなくなったが、2年後母は急に発作で亡くなってしまった。その日は偶然にもTさんの誕生日だった。そして母が死ぬ直前まで作っていたケーキを父が見せてくれた。それはあの夢で見たものとおなじ「たんじょうび おめでとう」と書かれたプレートがあった。

女の妄念が迷い歩く事

 今の福井県での事である。
ある者が関西地方へ行く為に歩いていたところ、沢谷というところに大きな石塔があった。
その下へ鶏が一匹下りてきた。月夜の日だったがよく見ればその鶏の首は女の首であった。そしてその男を見て不気味に笑った。
男は落ち着いて刀を抜ききってかかったがそのまま道筋を変えて上へ行った。続いて追っていると府中の町の上比志(かみひじ)という所にでて鶏は、ある家の窓から中へ入った。
不思議な事だと思い、その家の中の様子を聞けば女性が旦那を起こし「ああ、不気味なことだった。今、夢の中で沢谷を通っていたが一人の男が私を斬ろうとして刀を持って追ってきてここまで行ったら逃げれるだろうと思ったら夢から覚めました。汗水流しております」など言ってため息をついて語った。
それを聞いていた外の男はこの話を聞き、戸を叩いて「失礼な事とはおもうが、ここを開けて下さい」といって家の中に入り「ただいま追いかけたのは私です。もしかしたら人間ではいらっしゃるが、罪咎を背負ってらっしゃるとは嘆かわしい」と言って出て行った。
女も納得して、京都の真西寺に入り、後世はひたすら祈っていたという。