しゃもじ幽霊

ある古道具屋の女性が雨の夜、寄り合いから帰ってこない主人の帰りを諦め戸締りをして眠りに就こうとしたところ、戸を叩く者がいる。開けると雨に濡れた美しい女性が立っていた。真っ白な着物に真赤な腰巻といういでたちで、その女性は「待っていてあげて下さい。ご主人が今戻られますから」というとどこかへ行ってしまった。
しばらくすると夫が雨に濡れて小走りで帰ってきた。
その翌日、古道具屋に一組の布団が持ち込まれた。それは婚礼布団であったが売りに来た男は安価で手放した。早速店先に出すと数日で買い手がついたがなぜか数日で戻ってきた。やがて夫の母親がその布団を持って帰ると言い出し、翌日不安になった夫婦は夫の母親の家へ様子を見に行った。
するとそこには布団から逃れるようにして壁に穴をあけて腕を突っ込んでる母の姿だった。
怪しいと思った夫は布団を引き裂いてみた。そこには綿とともに色褪せた布の包みが現れた。妻がそれを開くと中から干からびた10本の指とくしゃくしゃの肉片、それも抉り取られた女性器だった。
そして夫はふと思い出した。妻が見たという女性の下半身が赤かったのは腰巻の色ではなく血に染まっていたためではないかと。妻も思いだし叫び声をあげた。
その女性の手を見た時に何か違和感があったのは指が1本もなく、のっぺりとした手のひらだけでまるでしゃもじのような形にみえたことを。

賭けをして我が子の首を斬られた事

 紀州のある里に侍が5~6人集まり、夜ばなし(※1)のついでに「この里から半里(2km)ばかり行った山際に祠があるだろう。その祠の前に川があるが、たまに死体が流れてくる。この際誰でもいいから、この川へ今から行って死人の指を切ってきた者には、刀をやるよ」と賭け事になったので、誰の行かないとは言う者がなかった。
その中に欲は深いが臆病者が「俺が行く」と引き受けて、自分の家へ一旦帰った。
そして女房に「自分は今、こんな賭けをしたのだけども胸がドキドキしてなかなか行けない」と言い出した。女房は「もう約束を変える事はできないんでしょ?私が行って指を切って帰ってくるから、あなたは家で留守番しておいて」と2つになる子供を背中に負い、その場所へ行った。
この川の前に森があってその祠の前に着き橋の下に降りてみたら、女の死骸があったので懐から脇差を出して指を2本切って懐に入れて森の間を抜けていたところ、上からしわがれた声で「足元を見てみろ、足元をみろ」と言う。怖ろしく思いながらも小さい包があった。取り上げてみたところ、重いもので「なるほど、これは仏神の自分を憐れんで、くれたきっと良いものだ」と思ってそのまま帰った。
男は女房が帰るのを待ち構えていて夜具を着て震えていたら、屋根の上から人2人ばかりの足音を鳴らして「お前は賭けをしたところへ行ってはないではないか」と言われる。それが誰かわからず恐ろしくて竦んでいた。
そこへ女房が帰ってきて男はてっきり化け物が中に入ろうとしていると目を回していた。女房は「私よ、どうしたの?」と言葉を聞いて男は喜んだ。
女房は懐から指を取り出して男に渡した。「嬉しい事があったのよ」と帰り際の包を男に言いながら開けてみれば、背中に負っていたはずの我が子の首があった。「これはどうしたことだ?!」と泣き叫んで急いで自分の子供を見ると遺骸となっていた。
女房はこの有り様を見て嘆き悲しんだが、もうどうしようもない。
けれども欲の深い男は、女房が取ってきた指を持って侍どもから刀を取ったとのことである。

※1 夜話、大体怪談話になる