自分

その後の自分

そろそろ大学受験を考えているKという男の子がいた。周りの友人はめきめきと学力を伸ばしており一人だけ取り残された気持ちになってきた。そのうち「考えてるの面倒だなあ、行ける大学があればなんでも行けばいいっかあ」と半分投げやりな気持ちになってきた。
塾からの帰り道バスがきた。なんだかいつもと車体の色が違うなと思いつつもKはそれに乗った。
次のバス停で大学生らしき男性が乗ってきた。他人とは思えないほど自分にそっくりでハッとした。その男性は面接にでも行くのか履歴書を取り出した。横目でそれを見ると名前が同じだった。やがてその男性はKをちらっと見てバスを降りて行った。

次に乗ってきたのは30代の会社員風の男性だった。左手に指輪をしていた。その男性の顔を見るとまたも自分にそっくりだった。ほくろの位置や背広にネーミングされた名前も自分と同じだった。その男性はKを冷めた目で見るとバスを降りて行った。

次に乗ってきたのは50代くらいのお腹の出た男性だった。うつろな目でしきりに汗をふいている。その男性の左手には指輪がなかった。ぷんとお酒の臭いを漂わせていた。その男性はKを見ると「人生なんて悲しいもんさ。せいぜいがんばれよ」と言い残し、席を立ってバスを降りて行った。

次はおじいさんが乗ってきた。Kも信じられない様子でそのおじいさんを見た。汗とほこりにまみれた茶色いシャツにすりきれたズボン、べったりと脂ぎった伸ばし放題の髪。おじいさんはKの隣に座り「俺もこんな若い時があったんだよな」と黒い手がKの襟をつかみボロボロの歯をだして笑いながら「人生バスの行先は自分次第だぞ、覚えとけ」とにらみつけた目は白目だった。
Kは怖ろしくなり大声を上げたとたん我にかえった。びっしょり冷や汗をかいて。
するとそこはまだ塾の前のバス停だった。茫然としているKの前にバスが一台停まり「お客さん、乗らないんですか?」と運転手がニヤリと笑った。

 

[参考文献:本当に怖い怪談]

影の病

北勇治という人が、外から帰ってきて自分の部屋の戸を開けてみれば、机によりかかる人がいた。
「誰だろう、私が留守にしていていたにもかかわらず、室内に立て籠もって」
見ていると、ものなれた様子で不思議に見ていると、髪の結い方や衣類、帯にいたるまで自分が常に着ているものにて、自分の後ろ姿は見たことはないけれど寸分違わず自分だと思った。あまりにも不思議なので顔を見ようとツカツカと歩み寄ると、向こうの方へ行き障子が細く開いてる所から縁の先へ走り出した。追いかけて障子を開けてみたが、もうどこかへ行って姿も見えなかった。
家内にその様子を語ったら母親は物も言わず眉をひそめていた。
しばらくして勇治が病気になり、その年のうちに亡くなってしまった。
これはいわゆる「影の病」というものである。
祖父も父親も自分の後姿を見て死んでしまった事は母親や家来は知っていた。だが縁起でもない事なので本人には語らなかったので知らなかった。
勇治の妻は2歳の男子とともに後家となってしまった。

[参考文献:奥州波奈志]