自殺

オバケ沢

場所は神奈川県愛甲郡にある。

大正時代、狂った女が髪を振り乱し、破れた着物を着てこの沢をさまよっていた。女は山にある蛇やトカゲなどを食べて何とか生きながらえていた。
しかし、その日暮らしの生活のため風呂に入るでもなく髪はボウボウと伸び、その姿は見るに耐えないほど醜く怖ろしい姿であった。その姿を見て里の人たちは「あの沢には化け物が住んでいる」と噂し、女をバケモノ呼ばわりするところから、この地名がついたという。
女は里の者から「オバケ」と呼ばれたことにたいそうショックを受け、思い余って投身自殺をしてしまった。

友チョコ

ある女性のお姉さんの話である。お姉さんは仮にMさんとしておこう。そのMさんは現在結婚されて仕事を辞められているのだが仕事をしているとき、とても仲の良いYさんという明るくて綺麗で誰にでも好かれるタイプの女性だったらしい。

ある年の2月MさんとYさんは一緒にバレンタインのチョコの買い出しへ行った。Mさんには当時彼氏(現在の旦那さん)がいてその人の本命チョコと会社で配る義理チョコをいくつか買った。
するとYさんの義理チョコの中に一つだけ義理とは思えないほど高価なチョコがあった。Mさんは「あれ?Yちゃん、それ本命のチョコ?」と聞くとYさんはうなずいて「まだ付き合ってはないけどこのチョコを渡すとき告白する」と言うのでMさんは応援したらYさんはとても嬉しそうだったという。

2月14日。Mさんは彼氏にチョコを渡し、同僚に義理チョコを渡した。Mさんの職場では男女関わらずお世話になった人との間でもチョコのやり取りがあってMさんはYさんにもチョコをあげた。
するとYさんもMさんへチョコを渡した。一緒に買いに行ったからどんなのかお互い判ってて大笑いした。でも気持ちだからと二人はチョコの交換をした。
仕事に戻りMさんはキャビネットを整理してYさんの机の上につい足をぶつけてしまい、そのはずみでYさんが机の上に置きっぱなしにしてたチョコの箱がその下にあった水の入った掃除用のバケツに入ってしまった。
Mさんは(あ、しまった)と思ったが自分も同じチョコを持っているのを思い出し代わりに自分のために買ったチョコをYさんの机に置いた。

翌日、Mさんが会社へ行くとYさんが「あれ?チョコ食べなかったの?」と聞いたきた。Mさんはおかしなこと聞くなあと不思議に思っていた。自分がチョコを取り換えた事はYさんには言ってないけどもしかして知ってるのかなと思ったがそうでもないようで、今さら取り換えた事を告白する勇気はなかったのでMさんは「昨日は帰ってすぐ寝たから今日食べる事にするよ」と言った。

翌日Mさんはいつも通り出勤した。すると先に出勤していた同僚に「昨夜Yさん、亡くなったらしいよ」と聞かされた。自宅で亡くなっていたところを母親に発見されたそうだ。そして遺書はなかったのだがどうやら自殺だったとのことで服毒死だったそうだ。Mさんはたいそう落ち込んだ。

それから1年後Mさんは結婚し子供もできて親友を失った悲しみも和らいできた。ところがまた最近になって憂鬱な青ざめた表情をしている事がおおくなったので妹さんは心配して問いただしたところ、Mさんはようやく語ってくれた。

Yさんが亡くなってから1年後のバレンタインにMさんが旦那さんにチョコを渡そうとすると旦那さんが辛そうに語ったそうだ。それはYさんが亡くなる前彼女に告白されたのだと。
Yさんは「親友の彼だと思って我慢してたけど辛くて辛くてもうダメ。このままじゃ自殺するかMを殺すかどちらかしてしまいそう」だと。彼は驚いたがなんとかYさんを納得させようとしたそうだ。
Yさんの自殺の原因はMさんと旦那さんにあったのである。妹は慰める言葉もなく黙っていたところMさんは「自殺だったらまだいいんだけど…」と言う。
思い出してしまうのはバレンタインの翌日「チョコ食べなかったの?」というYさんの言葉。自殺にしては遺書もない突然の死。そしてあの日取り替えたチョコの箱。
あの日Mさんが取り替えなければ今頃は…。

猫の自殺

大坂の博労の鍛冶屋八兵衛の妻は病気が重くて、とうとう亡くなってしまった。
死期が近づいた頃、長い事飼っていた猫が布団のあたりを離れずにいたが病人が「私はまもなく死ぬ。死んだあと、お前を可愛がってくれる人もおるまい。どこへでも行ったらよい」と言うと猫はしょんぼりと傍にいた。

病人が死んで野辺送りの時その猫は柩の後ろからついてきた。人が追い返すと猫は家に帰り、舌を食い切って死んでしまった。
貞享2(1685)年10月28日のことである。