死人の船室

上海を出航したK丸は夜の中、長崎へ向かっていた。夜だけあって静まり返っていたが、機関の音だけが不気味に音を立てていた。
Sという男が二等船室で眠っていたが自分の足を引っ張られたり、寝台の下から細い手が出てきたりして思わず身を起こした。額に手をやると寝汗がべっとりと手のひらを濡らした。彼は(なんだ、夢か)と思い再び横たえたが、あまりいい気分ではなかった。
彼がこの船に乗っている理由は、一週間前に川へ落ちて変死した友人の遺骨を郷里へ届けるために乗っているのである。他の乗客に知られると気味悪がられると思いトランクに骨壺を納めて自分の枕元へ置いていた。Sの頭には友人の死に顔や火葬場で見た頭蓋骨が次々と頭に浮かんできた。
しばらくすると彼の部屋の扉をノックする音がした。慌てて飛び起きて「どなたです?」と聞くと「俺だよ、開けてくれたまえ」とそれは確かに聞き覚えのある亡くなったばかりの友人の声であった。Sは勇気を出して扉を開けたが誰もいなかった。あまりにもこわかったのでボーイを呼んで「どこでもいいので部屋を変えてくれ」と言った。
ボーイは案外不審そうな顔もせず「そうですか、ではどうぞ」と部屋を変えてくれた。Sがトランクを取りに行こうとするとボーイは「トランクはそのままにしておいてください」と言うのでそのままにしておいた。
船が長崎に着いてからボーイがSに「あなたはあの部屋で不思議な事があったんじゃないですか?」と聞くので「変な事があったんだよ。でも君はあの時何故トランクはそのまま置いておくように言ったのだね?」と聞いた。
「あのトランクにはお骨が入ってるのでしょ?」
「どうして判ったんだ?」
するとボーイはこんな話をしてくれた。「どういう訳かあの部屋に当たった人は必ずお骨を持って帰る人なんです。そんな人がいない時はあの部屋は決まって空いているのです。船員はあの部屋を『死人の客室』と呼んでいます。そういう事であなたのトランクにも遺骨が入っているのだろうと思いました」

空船(うつろぶね)

享和(1803)年2月24日、常陸国(茨城県)原舎浜(はらとのはま)というところへ不思議な形をした船が漂着した。
どうやらその船は大木をくりぬいて造られた船のようで上は硝子障子で四方に窓もあり、下が鉄板で覆われていた。
中には20歳ぐらいの女性が一人いて、とても色白で黒髪がとても鮮やかだった。
そしてとても美しい顔をしていた。
何度話しかけても言葉は通じず名前もわからず、また小さな箱を持っていた。
船の中には敷物が二枚あり、とてもやわらかで何というのかはわからなかった。食べ物はお菓子と思われるもの、練り物その他肉類があった。
また茶碗が一つ、模様は見事だったがわからないものだった。
結局小さい箱にも触れさせてくれず、漁師達は相談して再び沖に返すことにした。この出来事は色んな書物に書かれた。