武士の親子

どうしてそのような身になったのか、両国橋で物乞いをしている浪人が4~5歳の子を連れて往来で援助を願っていた。

ある日、往来する人の情けをもらえることがなく子供は空腹になりしきりに泣き続けた。親も不憫に思い辻にいた餅売りに「朝から一銭も恵んでもらえず食べ物も買えない。この子が空腹なので嘆いている。餅を戴けたらすぐにお返しするので一つ商いの餅をいただけないか?」と頼んだ。
餅売りは「わしも今朝から商いになっていないので、駄目だ」と拒否されてしまった。子供はますます泣き叫んだ。
そこへ雪駄を直すものが有りあわせの銭を少々差しだし、「とてもお困りのご様子、これで立て替えてください」と申し出てくれた。武士は「かたじけない」と厚く礼を述べ餅を買って子供に与えた。往来の者に無心して、その者へお金を返した後、子を橋の上から川中へ投げ入れ、自分も続いて入水して死んでしまったという。

犬の転生

和泉国(大阪府堺市)のあたりに浄土宗の寺があり、そこの寺に白犬がいた。
一日中、修行しているときも白犬が堂の縁にきて平伏することが何年も続いていた。また常に修行者が大路で念仏を唱えれば、その裾に纏わりつき可愛らしく吠えたりする。
ある12月に餅を搗く日に餅を与えたら喉に詰まらして亡くなってしまった。
和尚が可哀想に思って戒名を丁寧に弔ってあげた。ある夜、そこで住んでる僧の夢にその白犬が来て「念仏の効力で来世は人間に生まれることになった。門番の妻のお腹に宿ることにする」と言った。
その通り、門番の妻は男の子を産み、和尚がこの訳を親に話して6,7歳の頃から出家させた。
とても聡明で一を聞いて十をこなす。なのでとても大切に養育してもらっていた。この男児は幼少より餅を切って食べなかったので、誰云うともなく「白犬」とあだ名をつけた。男児は「なんでそんなことを言われるのか」と思い13歳の時に和尚に聞いた。
そして「私を『白犬』と呼ぶのは辞めてほしい」と言った。和尚は「お前が餅を嫌うので皆そういうのだ。それなら餅を食べてみればいい」と餅を乗せた膳の前に向かったのだが、用事があるような感じでその場を去り、行方知らずとなってしまった。みんなで探したがわからなかった。和尚は「くだらない事を言ってしまった」と言って甚だ後悔したという。