生きていた嫉妬心

大坂の河内に住む裕福な妻が長患いの末に亡くなってしまった。裕福な家らしく盛大な葬儀が行われ本願寺から来た僧たちが一斉に読経した。その夜は亡者の柩の置かれた部屋で僧たちが休んだ。
夜中になると小雨まじりの風が吹き柩が揺れ、仏前の灯が消えてしまった。真っ暗闇の中で何かが動き出す気配があり、眠っていた僧たちの中で一人だけその気配を感じ、恐れていた。

翌朝、家の主が、りんという女中を呼んだがいくら呼んでも返事がない。柩の置かれた部屋に行ってみると僧たちが青ざめていた。棺桶の縄が切れて、蓋がわずかにずれていたのだ。
恐る恐る蓋を開ければ、りんの首がその中にあった。髪の毛を掴む格好で亡者の手に握られている。
主は亡き妻が、若くて美しいりんに尋常ならぬ嫉妬心を抱いていたことを思い出した。

 

[参考文献:新御伽婢子]

賭けをして我が子の首を斬られた事

 紀州のある里に侍が5~6人集まり、夜ばなし(※1)のついでに「この里から半里(2km)ばかり行った山際に祠があるだろう。その祠の前に川があるが、たまに死体が流れてくる。この際誰でもいいから、この川へ今から行って死人の指を切ってきた者には、刀をやるよ」と賭け事になったので、誰の行かないとは言う者がなかった。
その中に欲は深いが臆病者が「俺が行く」と引き受けて、自分の家へ一旦帰った。
そして女房に「自分は今、こんな賭けをしたのだけども胸がドキドキしてなかなか行けない」と言い出した。女房は「もう約束を変える事はできないんでしょ?私が行って指を切って帰ってくるから、あなたは家で留守番しておいて」と2つになる子供を背中に負い、その場所へ行った。
この川の前に森があってその祠の前に着き橋の下に降りてみたら、女の死骸があったので懐から脇差を出して指を2本切って懐に入れて森の間を抜けていたところ、上からしわがれた声で「足元を見てみろ、足元をみろ」と言う。怖ろしく思いながらも小さい包があった。取り上げてみたところ、重いもので「なるほど、これは仏神の自分を憐れんで、くれたきっと良いものだ」と思ってそのまま帰った。
男は女房が帰るのを待ち構えていて夜具を着て震えていたら、屋根の上から人2人ばかりの足音を鳴らして「お前は賭けをしたところへ行ってはないではないか」と言われる。それが誰かわからず恐ろしくて竦んでいた。
そこへ女房が帰ってきて男はてっきり化け物が中に入ろうとしていると目を回していた。女房は「私よ、どうしたの?」と言葉を聞いて男は喜んだ。
女房は懐から指を取り出して男に渡した。「嬉しい事があったのよ」と帰り際の包を男に言いながら開けてみれば、背中に負っていたはずの我が子の首があった。「これはどうしたことだ?!」と泣き叫んで急いで自分の子供を見ると遺骸となっていた。
女房はこの有り様を見て嘆き悲しんだが、もうどうしようもない。
けれども欲の深い男は、女房が取ってきた指を持って侍どもから刀を取ったとのことである。

※1 夜話、大体怪談話になる

[諸国百物語]