福岡県の心霊スポットとして、全国的にも名前を知られている犬鳴峠。
久山町と宮若市を結ぶこの峠は、普段から車の往来がある場所でありながら、旧道や旧トンネルの存在もあって、今なお多くの怪談や噂が語られています。
なかでも旧犬鳴トンネルは、肝試しに訪れる人が後を絶たない場所として有名です。けれど、そこに向かった人たちが必ずしも「ただ怖かった」で済ませられるとは限りません。
今回は、犬鳴峠にまつわる2つの怖い話を紹介します。
車のオーディオに表示された不可解なメッセージ
今から10年以上前のことです。
ある大学生が、友人3人と一緒に、アルバイト代で買った古い軽自動車に乗って犬鳴峠へ向かいました。目的は、旧犬鳴トンネルでの肝試しです。
その学生たちの同級生には、少しだけ霊感があるという女の子がいました。彼女は出発前、こう忠告したそうです。
「あの峠には行かないほうがいいよ」
しかし、若さと勢いの前では、その言葉も強い抑止力にはなりませんでした。4人は深夜の犬鳴峠へ向かいます。
旧道へ入るには、現在使われているトンネルの手前にある分岐を曲がる必要があります。その先にあるのは、街灯もほとんどない暗い道。たとえ心霊スポットという話を知らなくても、不気味さを感じるには十分な場所だったといいます。
現地に着くと、運転していた1人が怖気づきました。
「ちょっと、まじでやばそうだから俺はやめとく」
彼は車に残ることにしました。残りの3人は、旧道のトンネルに入って、反対側まで行ってから戻ってくると言います。
車に残った学生は「やめとけよ」と声をかけましたが、3人はそのまま暗闇の中へ消えていきました。
深夜の車内で起きた異変
ひとり車内に残された学生は、次第に怖くなってきました。
外は真っ暗。友人たちの姿は見えず、トンネルの方角からも物音はほとんど聞こえません。そこで彼は、車のオーディオにCDを入れ、陽気な音楽を流して気を紛らわせようとしました。
しばらくして、そろそろ友人たちが戻ってくる頃だと思った、その時です。
トンネルの方から、声にならないような叫び声が聞こえたといいます。
慌てて懐中電灯を手に取り、助けに行こうとした瞬間、車内で大音量で流れていた音楽が突然止まりました。
驚いてオーディオの表示を見ると、そこには奇妙な数字と文字が出ていたそうです。
01:97 Re
通常、再生時間の秒数表示は0から59までのはずです。ところが、そこにはあり得ない「97」という数字が表示されていました。
そして、その横に出ていた「Re」。
学生はその表示を見た瞬間、背筋が冷たくなったといいます。
01:97 Re
それはまるで、「行くな」「リターン」と告げているようにも見えたからです。
彼が画面から目を離せずにいると、表示は何事もなかったかのように元に戻り、音楽も再び流れ始めました。
その直後、トンネルに入っていた3人が戻ってきました。
変わってしまった友人
戻ってきた3人の様子は、明らかに普通ではありませんでした。
2人はひどく慌てていて、
「早く、早く車を出せ」
と繰り返すばかり。
もう1人は、帰り道のあいだ、ほとんど言葉を発しなかったそうです。
4人は急いで山を下り、近くのコンビニへ向かいました。そこで、慌てていた2人は塩を買い、自分たちの体に何度もふりかけました。一方、黙り込んでいた1人は、なぜか牛乳を買い、がぶがぶと飲み続けていたといいます。
後になって事情を聞くと、トンネルの中で異変が起きていたことがわかりました。
最後尾を歩いていた1人が、突然しゃがみ込んで動かなくなったのです。友人たちが無理やり立たせようとしたところ、その学生は普段とはまるで違う形相で、
「なぜここに来た!」
と怒鳴ったそうです。
いつもは温厚な同級生の変わりように驚いた2人は、怖くなって走り出しました。すると、その同級生は大きな木の棒を持って追いかけてきたといいます。
必死に逃げてトンネルの入口まで戻った時、後ろから追いかけてきていたはずの同級生は、なぜか入口付近で倒れていたそうです。
その後、トンネルに入った3人には不運が続きました。
慌てていた2人は、立て続けに病気になって入院。入口で倒れていた1人は交通事故に遭って怪我をし、さらにバイクまで盗まれてしまったといいます。
車に残っていた学生は、後日、霊感があるという同級生にメールでこの出来事を伝えました。
すると返ってきたのは、こんな言葉でした。
「やっぱりね。だから197って言ったのに」
あのオーディオに出た数字は、ただの故障だったのでしょうか。
それとも、あの場所にいる何かが、本当に「行くな」と警告していたのでしょうか。
犬鳴ダムの橋で見つかった赤いスニーカー
犬鳴峠周辺で語られる怖い話は、旧犬鳴トンネルだけではありません。
宮若市側から犬鳴トンネルへ向かう途中には、犬鳴ダムの橋があります。この橋でも、不気味な出来事が語られています。
ある日、現場仕事を終えた大工の男性が、車で帰宅していました。
犬鳴ダムの橋に差しかかった時、街灯に照らされた橋の隅に、何かが置いてあるのを見つけたそうです。
誰かの落とし物かと思い、男性は一度橋を渡ってから車を停め、歩いてその場所まで戻りました。
そこにあったのは、見覚えのある赤いスニーカーでした。
よく見ると、それは知人の男性が履いていたものに似ていたといいます。
「なんでこんなところに」
そう思って橋の下を覗き込んだ瞬間、男性は息をのみました。
はるか下の木に、水色の服を着た人のようなものが引っかかっていたのです。
その瞬間、橋の下へ引っ張り込まれるようなめまいに襲われたといいます。
もし、その時に奥さんから電話がかかってこなければ、男性はそのまま意識を奪われていたかもしれません。着信音で我に返った男性は、すぐに警察へ連絡しました。
翌朝、遺体が回収され、その件は自殺として処理されたそうです。
しかし、その男性には家族があり、遺書も見つかりませんでした。借金も車や住宅ローン程度で、生活に大きな問題があったようには見えなかったといいます。
なぜ彼は橋から飛び降りたのか。
それは、今も誰にもわかっていません。
心霊スポットへ行く前に考えておきたいこと
心霊スポットと聞くと、行ってみたいと思う人は少なくありません。
怖いものを見たい。噂の真相を確かめたい。友人同士で盛り上がりたい。そうした気持ちは、誰にでもあるものです。
けれど、心霊スポットと呼ばれる場所の多くは、ただの観光地ではありません。
そこには過去の事件や事故、亡くなった人の記憶、地元の人が大切にしてきた場所の空気が残っていることがあります。
軽い気持ちで踏み込めば、思わぬ恐怖に触れてしまうかもしれません。あるいは、霊的なもの以前に、暗い道や老朽化したトンネル、足場の悪い場所で事故に遭う危険もあります。
犬鳴峠にまつわる話が本当に霊の仕業なのか、それとも偶然や心理的な恐怖が重なったものなのかは、断定できません。
ただひとつ言えるのは、怖い場所には、怖いと語られるだけの理由があるということです。
興味本位で荒らすのではなく、理解と敬意を忘れないこと。
それが、見えないものに対しても、そこに残された人の記憶に対しても、最低限の礼儀なのかもしれません。
犬鳴峠へ向かった大学生たちが見たもの。
犬鳴ダムの橋で、男性が一瞬感じた「引っ張られるような感覚」。
その正体は、今もはっきりとはわかりません。
けれど、もし深夜の峠道で、車のオーディオにあり得ない数字が表示されたら。
その時は、好奇心よりも先に、引き返す勇気を持ったほうがいいのかもしれません。
